<第2部>『スーパーヒロイン危機一髪』  (作 ベスト氏)

  第8章


佳乃は親友のゆり子が、アシスタントのベストを決して嫌っていないことを知っていた。
好意を持っているとかではなく、放って置けない本当の弟のように何かと気を使ってあげていたのだ。
オフィスに遊びに行く度に、厳しい態度とは裏腹に、すごく目をかけていることがわかったのである。
ところが、そのベストが、ゆり子のその厚情を裏切り、密告して悪に加担して罠に嵌め、ゆり子を縛り上げて遊んだのだった。
佳乃はベストを絶対に許せない男だと思った。
世界中で最も穢らわしく、最も軽蔑に値するべき男である。
ベストの甘ったるい声を聞くだけで、全身に鳥肌が立ち、吐き気を催すくらい汚らしく最低の男だと思った。
そのもっとも軽蔑する男の、もっとも不潔なモノを口の中に押し込まれるなど、考えてもいなかった。
佳乃にとっては想定すら出来ない最悪の拷問だったのだ。
猿轡を噛まされた瞬間、本能がそれを吐き出そうとした。
身動き出来ない身体を必死にくねらせ、あごと舌と唇でブリーフを吐き出そうとした。

しかし、ベストはその姿を待ち構えていたかのように顔の撮影を始めたのだった。
猿轡された女性が、何とか猿轡を外そうと首を振り、身体を動かす姿、悩ましげに憎らし気に向ける視線の艶めかしさはもちろんだが、詰め物を吐き出そうとする唇と顎の動きがまた魅力なのである。
噛まされた豆絞りの手拭の結びコブは、小ぶりに絞まり、硬く大きなクルミのように皺を作って、口の中にすっぽり嵌め込まれている。
唇と舌と僅かに動く歯で、ブリーフを吐き出そうとする度に、大きめのクルミのような結びコブが微かにに回転するように動くのをフォーカスするのだった。
ベストにとって、口の中の結びコブと唇の動きは見飽きることのない代物なのであった。
そして、ベストは常日頃から、緊縛猿轡された女性が発する臨場感溢れる音を、もっとじっくり聞きたいと思っていた。
レンタルビデオの安っぽい大根役者の喘ぎ声や、安直に出される呻き声ではなく静寂の中に微かに聞こえる女性の耐える音をもっと聞きたかった。
それは、例えばミススカートの女性のパンプスが擦れる音や、太股のパンティストッキングが擦れあう音をもっとちゃんと聞きたいと思っているのと同じようにである。
やっと今、最高のモデルの佳乃の発する音を集めるチャンスがやってきた。
猿轡越しの呻き声をベスト達に聞かれまいとして、必死に耐えている佳乃は、逆に口中に詰められたブリーフの息苦しさから、時折鼻孔から大きな鼻息を吐き出すのだ。
洩れそうになる呻き声を我慢する時や力を込めて猿轡を吐き出そうと噛むたびに聞こえる熱い大きな鼻からの息遣いをきれいに集音したかったのだ。
天井から吊るされたロープが軋む音、そしてべストの大好きな革のロングブーツとレザーパンツがキュキュッと擦れあう音、そして鼻孔からの熱い熱い息遣いのハーモニーを聞くと、いかなる官能的な音楽より、ベストは快楽を覚えるのだった。

佳乃は間近で撮影するベストを力を込めて睨んでいた。
(あなた、こんな事して恥ずかしくないの?)そんな眼差しである。
どこか西洋的な顔立ちの佳乃の顔に、純和風の豆絞りの手拭のミスマッチが逆に一層被虐的に見えるのである。
ふっくらした頬を厳しく割られ、銜え込まされた結びコブが唾液で濡れているのが、佳乃を一層屈辱的に感じさせていた。

そんな佳乃の口惜しそう視線を楽しみながら、次ぎにブラジャーフェチのベストは、指先を佳乃の白いブラジャーに伸ばすと、毛虫が這うような手付きでそっと触れだしたのだ。
上胸部のストラップから白い刺繍のハーフカップをそっと触り、バストの弾力を指先で味あうと、乳房を下からそっと持ち上げる。
指の腹でワイヤーの手触り、カップの刺繍の指触りを感じたあと、腋の下のサイドベルトのツルツル感を味わい、バックベルトに沿って撫で、ホック部の盛りあがりを舐めるように指先を這わすのである。
鍛え抜いた佳乃のキュッと引き締まった上半身の硬い筋肉と乳房の柔らかさ、ブラジャーの素材の感触をねっとりと指先で堪能する。
その粘着質な行為に佳乃の表情が、気持ち悪そうに顔を歪めるのをじっくりと楽しむのである。
これまで、じっと呻き声を出すまいと堪えていた佳乃も、思わず「ムムンンン」と声を出し、大きな鼻息が「ふーん!」と洩れた。
「佳乃さん、今のご気分はどお?へへへ。気色悪いって顔だね。僕みたいな男からこんな目に遭うとは思ってもいなかったって顔かな?へへへ。」
それから、佳乃を挑発してからかうかのように、そっと指を延ばして、ブラジャーの肩ヒモを摘まむと、チョンと引っ張ってから弾いてみた。
肩ヒモはパチンと小気味好い音を肩で立てた。
この音こそブラフェチには堪らない音なのである。
面白がって数回弾くと、佳乃がからかわれている悔しさを噛み殺すかのように、何度も鼻息を洩らすのである。
更にベストは、今度はバックベルトに指を入れ同じように弾いた。
佳乃の眼は明かにとんでもない変質者を見る眼に変わった気がした。
しかし、このブラの音もブラフェチのベストにとって絶対に集音したい音だったのである。

(さあ、これから最後のシーンの撮影を始めることにしよう!)
そう独り言を言うベスト。
この時のベストは美しく艶かしい佳乃の姿に完全に舞い上がっていた。
もう、誰の声すら耳に入らない程,撮影に夢中になっていた。
猿轡とブラジャー大好きの自分が以前から撮影したいポーズにさせるのである。
いつかはたくさんのモデルに同じポーズをさせて写真集を出版したいとすら考えているポーズの撮影である。

ベストは、傍でアシスタントを務めてくれている縛り屋2人に天井のロープを外し、佳乃を床に座らせるように指示した。
床に尻持ちをつかせ、膝を立てるポーズに座らせたのだ。

その時、傍らでベストの撮影をじっと見ていた瞳がソファから立ちあがり、ベストに言った。
「もうしばらくしたら、片平いづみっていう女がこの屋敷を訪ねてくるわ、その準備をしなくっちゃいけないの。残念だけど、私とそこの縛り屋2人は席を外すわ。ベストも撮影終わったら、上の部屋にいらっしゃい!。片平いづみの緊縛姿をいいかもよ!。」
それから、2人の縛り屋には聞こえないようにベストにそっと近づき耳元で囁いた。
「ねえ、ベストちゃん、女3人をそこに並べて、目の前で私を縛って!。思いっきり猿轡をしてから、それから私を玩具にして!。ふふふふ。きっと物凄く感じるわ!。ねえ、ベストちゃん、私達が愛し合うのを、この女達がどんな顔して眺めるのかしら。想像するだけで、ゾクゾクするわ。」
年増女が思いっきり、甘えた言葉でベストを誘ったのである。
それから、また普通の声に戻って命令を始めたのである。
「それと、ねえ、ベスト、決して、女達の縛めを弛めちゃダメよ!。縛め解いたら、手に追えない猛獣が2匹もいるんだからね!。いいこと。部屋出るときは、そこの佳乃をホッグタイにするのよ、そこに手足をフックする金具があるでしょ?。それを留めるのよ!。動けないようにして!。部屋を出るとき外から鍵をかけてね!。いいこと!。この3つ、言いつけよ。わかったわね!それと最後に組織の掟をもう一回言うわよ!。決して許可なく女の下着を取っちゃだめ!。ここでは、裸はご法度なの。裸の品定めはボスだけが許されての。じゃ、後お願いね!」
そう言い終わると、瞳と縛り屋の男2人が部屋を出ていった。
しかし、ベストは真面目に聞いて頷いてみせたが、心は上の空だった。
自分の世界にのめり込んでいたのである。言いつけも心に刻んではいなかったのだ。

部屋には、ベストと佳乃とゆり子の3人が残された。
この時も、佳乃とゆり子がアイコンタクトで会話していることなど、ベストは気付いてはいなかった

床に尻餅をついて座らされた佳乃の縛めはそのままである。
揃えて縛られた足の膝を立てさせられて、太股が腹部に近づく形になった。
腕の縛りが相変わらず肘の辺りをキツく束ねるように拘束している為、胸を張る形のままである。
一層佳乃の背中は窮屈になった。
胸を張った分、背中の筋肉は緊縮する。
肩甲骨と肩甲骨が近づきあい、背骨が埋没して河を作り、鍛え上げられた背筋が窮屈そうに縦に皺を刻んで、波を打って、背骨の尾根を隠していた。

胸を張れば、背中には、背骨が沈んで河が出来、前屈みになれば、背骨が隆起して丘が出来る。
今度は、その盛上がった丘で自己主張するブラジャーのバックデザイン姿を撮るのである。
ベストは、丘を作った背中に映えるブラジャー姿での、緊縛写真が撮りたかったのである。
ベストは、まず一つ目の言いつけを破ったのである。
肘を束ねるように縛ってある腕の縛めを解いたのだ。
肘の縛めを解くと、肩の張りが取れ、緊張から解き放たれたように、佳乃の背中は伸張して、丸みを帯びて丘になった。
縛めは手首を拘束するだけになった。
背中に背骨の尾根が首筋から腰の辺りまで縦に見え、肌の美しさや艶やかさが眼に眩しくなった。
一瞬身体の締め付けが緩んだ佳乃はふーと鼻から息を出した。
ベストは佳乃の真後ろにカメラを廻して、後ろ姿を撮り出したのだ。
ゆり子から「もっと美しい背中」と言われ、マッスル雑誌の表紙を飾った綺麗な背中。
「日本一美しい背中」と読者から賞賛された綺麗な後ろ姿が今ベストの目の前にあった。
腰の後ろで、手首だけを白いロープで縛られている。
縛りのプロが縛っただけあって、縛めはまったく緩んではいない。
4重に縛られた上に、手首の間に縦縄が噛まされている。
親指には革の拘束ヒモが締められ、シンプルな縛りでも決して縄抜け出来ないよう工夫が施されている。。

ベストは佳乃の背中に見惚れた。
おそらく縛りとしてはもっともシンプルで何のテクニックも要らない、ある意味、縛り好きのマニアにはまったく物足りない縛りであろう。
しかし、故に背中のブラジャーの艶かしさと綺麗な背中の美しさが心行くまで堪能出来るのである。
首筋から縦に伸びる背骨の尾根。
その上から1/3辺りで横に横断するブラジャーの白いバックベルト。その交差する所で自己主張するかのように盛り上がって見える2段2列の四角いホック部。
鍛え抜かれた肩から背筋に吸い付くような肩ヒモと肩甲骨。
光沢のある生地で糸の縫い目まで綺麗にわかり、ブラフェチなら生唾を飲みたくなるような艶かしさである。
ベストが何より嬉しかったのは、佳乃のブラジャーが新品ではなく、勝負の時に身につけるような高級なものでもない、普段佳乃が着けていると思わせる普通の白いブラジャーだったことである。
結構長く使っているのだろうカップの辺りの刺繍の糸が1本解けているのがわかる。
何回も洗濯したブラジャーだとわかった。そんなブラこそベストは見たかった。
捕らえた獲物の匂いが伝わってくるような感触なのである。
アーティスト・ビューティと呼ばれるスポーツ選手の鍛えられて美しい背中の筋肉にぴったりと張りついた背中のブラジャーのバックデザイン。
この魅力こそ、ベストの背中への美の憧れそのものなのであった。
そして、その背中の上には、綺麗に結い上げて銀製のバレッタと留められた碧の黒髪と細く長い綺麗な襟足があり、柔毛(にこげ)が女の色香を漂わせている。
その綺麗な襟足に無粋な豆絞りの猿轡の2重の米結びの結び目がしっかりと厳しく締められている。
縛めを解いたらまるで赤いアザが残るのではと思わせるくらいの厳しさである。
ほんのちょっとだけ顔を横を向かせた佳乃の後ろからのアングル。
横顔が見え、頬に猿轡が割れるように食い込んでいるのが見える。
唇を割って口に結びコブがすっぽりと嵌め込まれているのがわかる。
いかに無慈悲に容赦なくキツク噛まされているかがわかる横顔なのである。
上半身のみがブラジャー姿で、このアングル、このポーズでの撮影をベストはしたかったのである。

この1枚こそ、ベストにとってもっとも興奮させられるアングルなのである。
腰の後ろで、シンプルに手首だけを縛った拘束、縛り好きには絶対物足りない縛りだが、背中の美しさが堪能でき、ブラジャーが燦然と自己主張する姿勢なのだ。
そして、綺麗な襟足。
成熟した女性の色香がもっとも漂う襟足に締められた厳しい猿轡の結び目。
人はよく「首筋に哀愁が漂う」といい、「後ろ姿は誤魔化せない」ともいう。
「怒りで肩が震える」とも言う。後ろ姿は正直なのだと思う。

古来から日本には「縄目の恥辱」という言葉があり、人前に縛られた姿を見られることは非常に恥ずかしいという概念があった。
ならば、きっと話す事も舌を噛んで自害することも許されない詰め物を施した猿轡はそれ以上の恥辱であったのであろう。

猿轡されて恥ずかしいという感覚は、素直に後ろ姿からオーラが発散されて、正直に現われるのである。
佳乃の口には,今、パンパンに詰め物がされて、その上から白黒の豆絞りの手拭の猿轡を噛まされている。
詰め物の有無など、後ろ姿には関係ないと思われるかもしれないが、そうではないのだ。
本当の詰め物がされた猿轡の恥辱と、ただ、撮影の為の詰め物の無い見せかけの噛ませ猿轡での心の恥辱が違うのである。
その違いが,ベストにレンズ越しにはっきりとわかった。
ベストが履いていたブリーフを口に詰められた猿轡を噛まされるという最高に屈辱的な猿轡。佳乃の後ろ姿は見事に恥辱に耐える猿轡を噛まされている事を表現していた。

佳乃の美しい背中に見惚れたベストは、2つ目の言いつけを破ってしまった。
思わず指が佳乃の背中に伸びたのである。
そして、ブラジャーのホックを指でそっと摘み上げると、堪らず外してしまったのである。ベストの心臓は口から飛び出す程の勢いで高鳴っていた。
ブラの締めつけから解放された背中には、ブラのバックベルトの赤い型がくっきりと残っている。
ベストは夢中で撮影し続けた。