<第2部>『スーパーヒロイン危機一髪』  (作 ベスト氏)

  第9章


ホックだけが外されたブラジャーの姿の佳乃の後ろ姿を夢中で撮影していた時だった。
部屋の外から、男の呼ぶ声が聞こえてきた。
「ベストさん!、姐さんが、早く来るようにお呼びですよ!」
手下のボディーガードの男のようだ。
その声に、ベストはハッと我に返った。
言いつけを破っている事を思い出して、心臓が止まる程、どっきりした。
高鳴る心臓で、我を忘れてしまったのである。
「はあーい!すぐ行きます!」
と大きな声で慌てて返事をすると、急いで佳乃のブラのホックを嵌め直し、ホッグタイにするための特性フックを探した。
慌ててフックを見つけると、床に転がすように佳乃を横倒しにして、手首と足首の縛めを乱暴にお尻の上で合わせるようにフックで留めた。
柔らかくしなやか佳乃の肢体が大きく弓反りになるように締め上げた。
ホッグタイでしなやかな佳乃の肢体が、海老のように美しく反り返った姿を慌ててカメラにおさめると、ベストは急いで撮影機材を纏めるて部屋を飛び出していったのだ。
3つ目の言いつけである、部屋に鍵をかける事も完全に忘れてしまっていたのだ。

ベストが居なくなった部屋で、佳乃とゆり子は直ぐにアイコンタクトをした。
2人はホッグタイと座禅転がし姿で床に転がされている。
2人の距離はせいぜい2メートル程度である。
すぐに2人は眼と眼で「今がチャンス!」と会話したのである。
まず、佳乃が強靭なバネで床を這うようにゆり子に近づき出したのだ。
ホッグタイの姿勢ながら、佳乃の鍛え抜いた強靭な肉体はバネのように躍動し必死に身体を這わせ、顔をゆり子の背中に持ってきたのである。
ここで、もう一度2人はアイコンタクトで言葉を交わすと、後ろ手に縛られているゆり子の手首に、佳乃が猿轡された自分の顔を近づけて、ゆり子の手のひらに猿轡の結びコブが触れるようにした。
ゆり子が指先の感覚で、佳乃の猿轡のコブを掴むと、少し乱暴だが、何とか口から外すことに成功した。
猿轡が口から外れた佳乃は必死にベストのブリーフを吐き出し、ペッと唾を吐いた。
「ふうー」と大きく息を吐く佳乃。
「ゆり子!大丈夫!直ぐ猿轡外してあげる!」
そう言うと、今度は自分の顔を床に転がっているゆり子の顔の方まで這って持って行き、口でゆり子の噛まされている白い猿轡の結びコブを噛んで引っ張ったのだ。
かなりキツク噛ませてあった為、中々器用には外せなかったが、そこは息の合った2人。
必死に呼吸を2人合わせて何とか結びコブを引き抜く事に成功した。
猿轡を半日ぶりに外されたゆり子は、瞳のショーツを吐き出すと、痺れた口を開いた。
「佳乃ゴメン!ホントゴメン!助けに来てくれてありがとう!」
「ゆり子こそよく頑張ったわね!そんな事より早く縄をほどきましょう!」
「でも、どうやって!プロが縛ってるわ!簡単には解けないわよ!」
「ねえ、手首を私のブーツの方に持ってきて!右足のブーツのヒールを掴んで左に捻って頂戴!中に小さなナイフが仕込んであるわ!それで、先にゆり子のロープを切って欲しいの!。時間がないわ!さあ、早く!あいつらが帰って来る前に!気をつけて切ってね!」
特殊訓練を警察で受け、危険な任務の多い佳乃に抜かりなかったのだ。
靴のヒールには必ず小さなナイフを仕込めるようにしていたのだ。
それからは、無二の親友の2人である。
息の合った間合いで瞬く間に、ゆり子の手首の縛めを切り落すと、素早く足のロープも解き、次ぎに佳乃の縛めもゆり子が手際良く解いた。

2人は縛られて痺れた二の腕を摩りながら、「話はあとでゆっくりしましょう!今はここをどうやって脱出するかよ!警察庁刑事局長が悪の黒幕だもの、警察に迂闊に応援は頼めないわ!でも、絶対あの瞳って女だけは、身柄を確保しなくっちゃ、あいつの身柄さえ押さえれば絶対の証拠になるもの!」と佳乃。
「もちろんよ、百倍にしてお返ししなきゃ気が収まらないわ!たっぷりと復讐してやるわよ!」というゆり子。
「もちろん私もよ!それにあのベストもね!。私に考えがあるの!」
そう言うと佳乃はゆり子に素早く耳打ちした。
ゆり子はひとつ笑ってうなずいた。
「さあ、たっぷりお返し出来るわ!さあ、行きましょう!地上には男が10人位いると思うけど、さっき一回私が痛めつけてるから大したことはないと思うわ。今度はこっちが奇襲攻撃で、滅茶苦茶にしてやるわ!」
2人はランジェリー姿のまま、地下室を飛び出すと、階段を駆け上がった。

2人が縄抜けに成功するちょっと前、ちょうど地上1階の部屋では、佳乃から預かった証拠写真を持って訪問してきた片平いづみが、騙されたと気付いて逃げ出そうとしていた。
しかし、あえなく男たちに取り押さえられて椅子に縛りつけられていたのだ。
「まったく馬鹿な女ね!あなたって!」
という瞳のからかいを聞きながら、片平いづみは反論すら出来ないまま、その大きな口に赤いボール猿轡をがっちり噛まされ、後ろ手に縛られていた。
一見有能なキャリアウーマンを思わせるきちっとしたスーツ姿のいづみを縛り屋の男2人が高手小手に縛り上げ、黒いパンプスを履いた足も、くるぶしと膝上を白いロープで縛り上げていたのだ。
「ううーん」と呻き声をあげるいづみに、瞳が「猿轡された顔が一番お似合いって、警視庁で評判らしいわよ!。こうやって間抜けに捕まえられて猿轡されるのあなた何回目?全く馬鹿な女ね!。ほほほ」とからかっていた。

丁度のそのセリフを言い終わった時だった。
佳乃とゆり子の2人の怒りに燃えたライオンがドアを蹴破り襲撃してきたのだ。
10人近い男たちは、いずれもボディガードを務めるほどの猛者ではあった。
が、佳乃の恐ろしさを先ほど知らされており、初めっから闘争心が萎えて思わず後ずさりしたのである。
女ながらも2人とも空手の達人であり、怒りに震えていて獰猛になっていては、勝負の結果はあっけなかった。
瞬く間に男たちは、散々に殴りまくられ、口から血を流して床に崩れ、ある者は呻き声を上げながら、うずくまってしまった。
2人は狂暴そのものだったのだ。
男達全員が、将に瀕死の重傷で無残な姿を晒す事になってしまったのである。

瞳は慌てて室外に逃走しようとした。
しかし、逃げ切れないと思ったのか、壁に掛けてあった中国刀を持って応戦してきた。
瞳にも一通りの中国武術の心得があったのだ。
「貴方だけは怪我させないわよ!その代わりたっぷりとお礼をしなくっちゃならないもの!。それに消えた女性たちのことも全部話してもらうわよ!…………ふ−ん!瞳さん、あなた少しは武芸の心得が有りそうね!面白いわ!かかってらっしゃい!」
佳乃とゆり子の挟み撃ちに遭いながらも必死に瞳も戦った。
しかし、やはり最後は刀を持つ腕を払い落されると、ゆり子に背後から羽交い締めされ、口を手のひらで塞がれた。
「さあ、おとなしくなさい!眼が覚めたら素敵なところに招待されてるわよ!」
と佳乃が言うと同じに、瞳のみぞおちに当身が入った。
「ウッ」とい呻き声と同じに瞳が失神した。

2人は、次ぎに憎っくきベストの姿を探した。
部屋に入って来た時から姿が見えなかったのである。
実は丁度2人が襲撃してきた時、ベストはトイレに行っていた。
トイレの中で2人が縄抜けして反撃してきた事に気付いたベストは今日1日撮影した瞳・ゆり子・佳乃の緊縛猿轡写真という宝物を持って、外に逃げ出していたのだ。
2人が気付いた頃は、すでに屋敷の外に脱出していた。
(ここでベストを捕り逃した事が、後日また新たな災難をもたらす事になる。)

佳乃とゆり子は瀕死の重傷の男たちを、屋敷にあった金属の手錠で数珠繋ぎに結んでから、1室に閉じ込め、頑丈に鍵をかけた。
縛られている片平いづみの処置に困ったが、のんびりしている暇はなかった。
何と言っても警察庁刑事局長・朝見洋一郎の屋敷であり、屋外に逃走した人間もベストの他にいるかもしれない。出来るだけ早く脱出する必要があった。
しかし、裏切りの罰は必要である。2人は屋敷の中にある折檻用のバイブレータに眼をやった。
にやりと視線があった佳乃とゆり子は、これを片平いづみの股間に噛ませる事で一致した。
この後、いづみは警察に助け出されるまで、全身に脂汗を流しながら、ボール猿轡を噛み縛って絶叫することになってしまったのである。




それから、30分後、佳乃は隣でハンドルを握るゆり子の車の助手席から携帯で会話をしていた。
都心の土曜の朝が東の空から明けようとしていた。
車はもちろん、オロシャ屋敷から拝借したワンボックスカーである。
後部座席には、生け捕りにされた斎藤瞳が縛られて転がされていた。
もう意識が戻っている。
白のノースリーブシャツにフレアミニスカートのまま後ろ手に縛られており、口にはもちろん屋敷にあった折檻用の巨大ボール猿轡が頑丈に噛まされていた。
呻き声すらまともに出せないような厳しい猿轡があごを頑丈に固定していた。
その厳しさに呻こうとする瞳に向って、運転席のゆり子が「静かにしなさい、ふふふ!。今からたっぷりお返ししてあげるわ!どんな折檻が待ってるか想像出来る?ふふふ。
今度は貴方に、生きたまま捕らえられた事を後悔させてやるわ!辛くて辛くて死にたくなるわよ!本当に私達怒ってのよ!徹底的になぶり者にしてやるわ!覚悟なさいな!」
とバックミラー越しに話かける。
助手席の佳乃は微笑を浮かべながら後部座席を振り返り、瞳にウインクしながら携帯を続けていた。
電話の相手は、東京地検・特捜部長の松坂陽子である。
昨日からの事の顛末を話して、匿って欲しいとお願いしたのである。
松坂陽子の指示は素早かった。
直ぐにそのオロシャ屋敷は危険であるから、直ぐに脱出する事。
自分のマンションに、斎藤瞳だけを連行してくる事。
マンションの地下駐車場から自分の部屋まで専用エレベータがあり、誰にも見られずに緊縛された瞳を連れこめる事、を話すとすぐに地検特捜部のメンバーをオロシャ屋敷に急行させて男たちと、片平いづみの身柄を確保するように指示すると伝えて来たのだ。

松坂陽子は部下に警視庁刑事局長・朝見洋一郎と実弟のフリーライター・朝見満彦の居場所を他のLRPメンバーに探らせる事も佳乃たちに伝えたのである。
しかし、敵は強大であり素早かった。
すでに朝見兄弟の姿は何処にもなく、3日後、東京湾で2人とも溺死体で発見されるのである。
更に背後に大掛かりな誘拐組織の存在があったのである。
その組織に朝見兄弟は口を封じられたのである。
その事は松坂陽子のマンションに連れ込まれて尋問された斎藤瞳が全てを自白した内容からも顕かであった。
背後にはロシアン・マフィアと呼ばれる世界的規模の犯罪組織が存在しており、朝見兄弟はあくまでも日本支社長に過ぎない事が判明したのである。
しかし、小悪党のベストだけは、その行方が判ら終いに終わった。

瞳は、連行後3日間、陽子、ゆり子、佳乃から昼夜を問わず女の折檻を受けたのである。
3日間、有りとあらゆる種類の猿轡を間断なく噛まされ続け、寝る時も外されなかった。
自供の時も、手の縛めだけを解かれての筆談で行われた。
何度も瞳は猿轡を外して欲しいと、眼差しで哀願したが、その度に3人は逆に尚一層、猿轡を強く締め直したのである。
そして、佳乃とゆり子もこの時知ったのであるが、ボスの陽子が何より他人に猿轡を噛ませて遊ぶ事が大好きな女だったのだ。
それは、彼女の青春時代のトラウマだったのであるが。


瞳には、もうひとつ斎藤瞳とは別の名前があった。
実は彼女はシンガポール系中国人で、本名「メン・タンピン」という。
日本には密入国である。日本での前科はないが、香港では、国際麻薬シンジケートの運び屋として、世界中を飛び回っていた。
「猿轡折檻は」3日後に許された。
瞳は、「猿轡折檻」を許された後、自分の生い立ち、過去をすべて話した。
瞳自身、幾多の罠に嵌められ悪の世界に引きずり込まれたかを、涙を流して語ったのある。
松坂陽子は「瞳の存在」を日本で煙にする事にしたのだ。

瞳は3人の前で正座をして、これまでの悪事を全て謝り、涙を流しながら改心したのである。
瞳は特捜部長・松坂陽子の密偵になる事になったのである。

刑事を辞めた佳乃と、カメラマンを辞めたゆり子、それに罪を許され、密偵になった瞳。
この時、後に悪党たちから「鬼の陽子」すなわち「鬼陽犯科帖」と呼ばれる伝説が始まったのである。
この3人は新たに「パープル・キャッツ」を結成し、松坂陽子の秘密警察になって悪と闘う事になる。もちろん、闘う相手はロシアン・マフィアであり、誘拐され行方不明になった女性たちの探索であった。

                             第2部 完


その活躍はまた別の機会のお話。長い文章お付き合いありがとうございました。