<第2部>『スーパーヒロイン危機一髪』  (作 ベスト氏)

  第2章

「今度の撮影は、ワンフレーズで何か『物語り』が浮かんでくるようなものに出来ないかなぁ、と考えてたところに、今噂になってる『パープル・キャット』のことを聞いて、構図を思いついたの。いい?ゆっくり話すから目を瞑って頭の中で想像してみて!お願い!じゃ話すわよ!正義のスーパーヒロインが捕らえられたってイメージの写真にしたいのよ。
佳乃自身が「スーパーヒロイン」になったつもりになって、地下室のようなコンクリートだけの部屋に後ろ手に縛られて手首を天井から吊るされて立たされている自分の姿を想像してみて!どお?イメージ出来た?まず佳乃のファッションなんだけど、真っ黒な光沢のあるレザーのパンツに膝まである細い黒のヒールの高いロングブーツを履いてるわ。
細身のロングブーツがぴったりと脚にフィットして膝下の長くて綺麗な脚線美を強調して見せる事が出来るわ。ぴっちりのレザーパンツだと、お尻の形の良さもはっきりわかるし、ハイレグのショーツのラインがかすかに浮き上がって見えてたりして(笑)。ブーツの上から足首と、レザーパンツの上から膝下と太股を真っ白いロープで2重にキュキュッと縛って、縦縄を丁寧に噛ませるわ。革とロープの擦れ合う音が聞こえてくるくらい絞り上げちゃうわよ!白と黒のコントラストが、色鮮やかで美しいようにね。それから怒らないで聞いてね。上半身は裸よ。」
「エェー!、ちょっと、もう私裸なんて絶対いやよ!」
佳乃は心とは別に帰るそぶりを見せた。
「ちょっと待ってよ。裸といっても、もちろんブラはしてるわよ。純白のブラなの。私ね以前から佳乃のような綺麗な筋肉質のキューと引き締まった美しくて硬い背中には真っ白なブラが一番良く映えると感じているの。特に佳乃みたいに色白で線が細くて肌がなめらかな綺麗な背中にはシンプルな白が良く似合うと思うわ。オフホワイトのハーフカップでバックベルトの少し細い2段ホックのスポーツブラを着けて欲しいのよ。今回は「美しい後ろ姿の拘束美」を強調したいから、背中の美しさがポイントなのよ。だから手首に革の拘束具だけ使うわ。手首の腹と腹を合わせて締め上げて、白いロープで手首を天井に吊るす。手首が肩の高さよりちょっと低い位置まで吊るして、身体が少し前屈みになる位ね。
肩の関節が柔らかい佳乃だったら一段と身体のラインが綺麗に見えると思うわ。胸の谷間のV字がはっきりとわかる姿勢よね。わきの下から肋骨にかけて、あばらが浮き上がってみえて、白いブラのサイドベルトが眩いの。肩から背中の筋肉の逞しさと肌にピチッとフィットしたオフホワイトのブラとのコラボレートが引立つように。肩から背筋、肩甲骨、それと二の腕の筋肉の美しさや肌の弾力がきれいにわかるように撮りたいの。白いブラの肩ひもやホックって背中の艶かしさの彩りを添えると思うの。それから、襟足。髪はアップにして白くて長い襟足の色気、細い柔毛の妖艶さなんか今度も撮りたいな。佳乃の襟足の美しさは前回の写真でも評判だったし!想像しただけで美しいと思わない?どお?」

佳乃は身体中の血液が逆流しているかのように、全身が熱くなるのを感じていた。
佳乃は、親友のゆり子に自分が『パープル・キャット』である事を完全に見抜かれていると感じた。
その事にも確かに動揺したが、それ以上に自分の心の奥底に眠っている「身動き出来ないくらいの厳しい緊縛と一声も発せられない猿轡をされてみたい」という誰にも気取られていないと信じていた願望まで見透かされていることを感じて、顔中が真っ赤になっていた。佳乃は、子供の頃から、よく時代劇や刑事ドラマでヒロインが捕らえられ、ピンチなるシーンを見るだけで、胸がドキドキと高鳴るのだった。
大人になるに従って一段とこの趣向は強くなっている。

普段のクールな佳乃とは違うオドオドした声で聞きなおした。
「本当に顔は見せないのよね?誰か判らないように撮るのよね?顔を見られたら職場に行けないないわ!」
それから佳乃は一度言葉を飲み込んでから思いきって聞いてみた。
その言葉は口に出すのがとても恥ずかしいと思っている言葉である。
「口に猿轡はしないのよね?それだけは絶対にいやよ。恥ずかしいもの。」
「何言ってんのよ。もちろんするわよ。佳乃のその可愛いほっぺがくびれる位きつく噛ませるわよ!(笑)だいいち、猿轡のないボンデージなんて魂の入ってない仏像みたいで、まったく絵にならないわ!あ!それとも佳乃は男性に猿轡噛ませる専門かしら(笑)。
それに、綺麗な後ろ姿には、猿轡のうなじの結び目もとっても重要なポイントなの。2重に米結びされた厳しい結び目をキチンと作って鮮明に撮るわ。髪もアップに結い上げるように後ろで纏めていて、佳乃の細くて白い襟足に、ほんの少し汗が光ってる方が艶かしいかしら。顔はよく仮面舞踏会なんかで貴婦人が使ってるみたいなマスクを考えてるわ。目や鼻はちゃんと見えるけど、誰かはわからない。正義のヒロインって感じのマスクを探すわ。これならいいでしょ?仮面と猿轡でどこの誰かなんてわかりっこないって!それで猿轡なんだけど、最初は白黒の豆絞りの手拭が佳乃には良く似合うって思ってたんだけど、今迷っているの。竹製の猿轡なんかどお?」
「竹??」佳乃は本当に意外そうに聞き返した。
「そう。竹。良く時代劇で舌を噛んで自害するのを防ぐ時に使う猿轡で、まあ、自害防止の定番ね。それだと、見る人が「あぁ、自害防止の為に噛まされてるんだ」ってわかるように、まあ、私の勝手な解釈なんだけど、この世界の決まり事だと思っているわ。テレビ時代劇で見たことない?口の幅よりちょっと長めの竹筒に手拭のような布を通して作ったオリジナルの猿轡にするわ。捕らえられた佳乃の肉体をみれば、一目で只者じゃないって身体だから、女コマンドとか諜報部員なんかをイメージ出来るわ。そんな屈強なヒロインが狡猾な敵の罠に嵌り、生け捕りにされてしまった。これから受ける女としての辱めや恥辱から逃れる為に、舌を噛んで自害出来ないように竹製の猿轡を噛まされている。正義のヒロインは生け捕りにされたことが悔しくて堪らない、一声も反論出来ず、舌を噛み切って自害することも出来ない事が無念で仕方ないって感じで顔を背けてて、耐え難き恥辱に必死で耐えてるって感じを強調したいの。悔しくって竹を歯噛みしている音が聞こえそうなくらい、噛み締めて欲しいの。赤く引いたルージュの唇が左右に引き伸びて、佳乃のふっくらした頬が二つに割れるように竹に通した布が食い込んでるの。竹を奥歯で噛み締めてるって感じにキツク噛ませるから、少し顎が痛いかもしれないけど、我慢してネ。佳乃のブーツの足元には黒のタンクトップのシャツが引き千切られてるの。竹の猿轡からは飲み込めない涎がたくさん垂れ落ちてる床も被虐感を強調するわ。無機質なコンクリートの部屋が、静寂を創っている。革のブーツが擦れあう音と猿轡越しに洩れる佳乃の辛そうな吐息、軋みあうロープの音しか聞こえない。「最強のスーパーヒロイン」が地下室に押し込められてるって感じに撮りたいのよ!ねえ、佳乃どお?佳乃のその最高に美しいボディラインがキリキリに縛られて猿轡されて吊るされてる写真って最高に綺麗だと思うんだけどなあ。」

普段いくら酒を飲んでも顔色ひとつ変わらない佳乃が、この時は耳まで真っ赤になっていた。更に真っ赤になった顔をゆり子に見られた気がして、更にドギマギしてしまった。
(ここは何かを言ってゆり子に反撃しなければ)
そう必死に思い返して、やっとの思いで言葉が出た。
「よくもまあ、そんな変態みたいな写真の事が思いつくわねえ!いつからブラなんかにそんなにこだわるようになったの?何か変!それって本当にゆり子が考えたことなの?(笑)。これまで聞かされてたゆり子の趣向とは何か違う気がするんだけど?」
「へえーやっぱり気がついた!そう!実はこの話半分以上はアシスタントのベストの理想図なの(笑)
以前、佳乃の事を見て、「佳乃さんみたいな女性をモデルにして撮ってみたい写真がある!」って言って話し出した時があるの。それが今話した構図なの。
聞いてて男の子の憧れっていうか、憧れのヒロインを自分のものにしたいっていう支配欲みたいなものが理解出来たような気がしちゃったわ!
やっぱり男の子の心の中には、子供の頃から、強い女性を征服してみたい願望があるのね。聞くうちに、私が男性向けにそんな写真を撮ってみたいと思うようになっちゃた。だから半分は私の理想!どお!」
「あのガキ!私見てそんな事想像してたの!クソ!今度一回たっぷりいたぶってやるわ!」
「やめなさいよ!そんなことしたら、あの子泣いて喜ぶわよ!一度佳乃からパープルキャットみたいに猿轡されたい!と話してたもの!」

しかし、この50時間後、今語りあったシーンが、実際ベストによって実現されることなど、夢を語ったベストはもちろん、ゆり子も佳乃も知る由もなかったのである。