『ゆり子の災難』 (作 ベスト氏) |
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第4章 |
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床にうつ伏せに倒れたゆり子を見下ろしながら、瞳は大きな息をひとつついた。 口から抜いたボール猿轡は、まだ瞳の首に首飾りのようにぶら下がっている。 ソファに座り、綺麗な足を投げ出しながら、横に置いた黒の大きめのトートバッグを持つと、中からシュガーケースを取り出し細く長い煙草を抜き出して火をつけた。 美味しそうに紫煙を吐き出す。 縛られて痺れた肘を痛そうにさすりながら、「まったく冗談じゃないわ。よくもやってくれたわねこのアマァ。とんでもない恥をかかされたもんだわ! この御礼はたっぷりしてやるわよ。覚悟することね!」 そう吐き捨てた。 口元から頬には赤い猿轡の痕がきれいに残っている。 実は瞳は、国際美女誘拐組織の一員だ。組織のボスは縛られ猿轡されて身悶えする女を酒を飲みながら鑑賞するのが何より好きなのだ。 瞳自身、これまで何回もボスに縛られ猿轡を噛まされて遊ばれた事はある。 しかし、今日のように同性の年下から、それも自分とはまた違う魅力をもった女から縛られたのは初めての経験だった。 プライドの高い瞳にとって、想像していた以上に悔しかった。 その反面、心の奥底にうずくような興奮があったのも事実だ。 女にボンデージされる女の気持ちがわかった気がした。 煙草を吸い終わると、すぐに仕事に取り掛かった。 まずはこの女を縛り上げることだ。 意識が戻るにはまだ時間がかかるとはいえ、空手の達人である。 万一暴れられたらさっきのように大変だ。 トートバッグの中から、手足を拘束する白いロープを取り出すと、うつ伏せのゆり子の手首を腰の後ろで交差させてから縛った。 次に黒いロングブーツの足首を合わせて締め上げ、膝上も同様に縛った。 それから、自分の首にまだぶら下がっているボール猿轡を外すと、気を失っているゆり子の口を左手で左右から押して開けさせ、まだ瞳の唾液がべっとりと光っているボールを口に強引に捻じ込んでからうなじで厳しく締め上げた。 今度は特製のフックがついた金具で手首と足首が背中で引っ付く位に近づけて留めた。 しなやかな肢体のゆり子がまるで海老のように反り返り、見事なホッグタイが出来上がった。 空手で鍛えた肉体は少しの贅肉もない、スレンダーでしなやかなゆり子の身体。 鮮やかな赤のシャツと黒く光るロングブーツのコントラストは美しく、瞳から見ても美しいほどのホッグタイである。 非常にシンプルな縛りだが、これまでの経験で絶対に縄抜け出来ない事は証明されていた。 一連の拘束の動きの手際良さは瞳がいかに沢山の女をボンデ―ジしたかがわかるのである。 「さあこれでいいわ。しばらくそこでおとなしくしていることね。」 気を失ったままのゆり子にそう言い捨てて、瞳はネガの捜索に入った。 ゆり子は夢を見ていた。 空手の試合の夢だ。突然相手が飛び掛り、背後から柔道の絞め技に入ってきた。 「あなたそれは柔道よ。空手じゃないわ。」 そう叫んだが言葉にならない。 まったく絞めは緩まない。頭が割れるように痛い。そう思った時、覚醒した。 朦朧とする意識で身体を動かそうとしたが、まったく動かない。言葉も出ない。 初めは夢の続きかと思った。 自分が拘束されている事に気づくまで少しの時間が必要だった。 部屋を見渡すと何かを探したような跡がある。 そして、スタジオにある大きな姿見をみて愕然とした。 自分が海老のように縛られた上に、口にはボール猿轡を噛まされていることがわかったのだ。 赤いボール猿轡はゆり子の顔を瓢箪のように醜く歪め残酷なほど頬に食い込んでいる。 そのボール猿轡がさっきまで自分が瞳に噛ませていたものだと気づいた時、ゆり子は吐き気を催した。 他人の唾液のついた猿轡を噛まされる事などこれまで想像もしていなかった。 必死に吐き出そうとしたが、きっちり頬に食込み、下あごを固定されたように噛まされており、まったく動かない。言葉もまったく出ないのだった。 自分が好きな大きなボール猿轡が今は逆に恨めしかった。 しかし、瞳は一体何者なのだろう?この手際の良さは普通じゃない。プロの人間だわ。 そう言えば「早くネガを渡しなさい」と言っていたわ。 あの写真が欲しいのね。しかし、なぜ自分が証拠写真を持っている事がわかったのだろう?何故?とにかく親友の刑事に渡したことが正解だった。 とにかくここを早く逃げ出さないと。それから必死にもがいた。 力の限りを振り絞って暴れてみた。 恐らくそれは活きの良い海老が飛び跳ねているように見えただろう。 しかし、それは無駄である事を直ぐに悟らされた。まるで縛めは緩まないのだ。 猿轡だけでも外そうと床に頬を擦りつけたが外れない。 頭の中が真っ白になっている。 化粧はくずれ、パンツと革のブーツの中は汗びっしょりだ。 その時、背後のドア辺りに人の気配を感じてた。 「気がついたようね。もういくらあがいても無駄よ。」後ろから瞳の声だ。 ドアの側で腕を組み、壁に寄りかかって笑っている。 「もう観念することよ」 そう言って近づいて来ると、芋虫のように悶えるゆり子の乳房をパンプスの先で踏みつけ、「ずいぶん貧弱な胸ね!ふふふ。体さえ自由なら貴方なんかぶん殴ってやるって思ってんでしょ、ねえ、空手の達人さん。貴女の事はすべて調べがついてるのよ。」 とコロコロ笑う瞳。 「これじゃお話出来ないわね。」 瞳はゆり子の背中で手足を留めているフックを外し、ホッグタイから解放した。 しかし、もちろんボール猿轡を外す気はまったくない。 それから乱暴に髪の毛を引っ張って、体をひき起こすと、尻餅をついた格好に座らせた。 ゆり子はその痛みから、「ウググ〜」とうめき、髪の毛をひっぱられた悔しさから、瞳を鋭く睨みつけた。 「あら!悔しいの。でもこんなのまだ序の口よ。達人さん!」 と瞳が楽しそうに言う。 大事な髪を引っ張られた悔しさから、ゆり子は首を斜め上に振り、猿轡を外すように要求した。 しかし、瞳は笑いながら「猿轡を外して欲しいって事?ふふふ。いいわよ、大人しくネガの在りかを話すのなら、猿轡を外してもいいわよ。どお?………でも、その顔じゃ簡単に話しそうもないわね。まあ、いいわ。たっぷり痛めつけてからゲロさせるわ、ほほほ!」 ゆり子は大きなボール猿轡を口一杯に銜え込んだ顔で、眼だけは瞳を睨んでいる。 瞳はゆり子の前にミニスカート裾を気にしながらしゃがみ込み、右手の細くて繊細で綺麗な白い指先でゆり子の顎をちょんと持ち上げて優しい声で諭すように話し掛けた。 「ねえ、ゆり子ちゃん、この世には見てはならないものがあるの。変なことするからこんな目に遭うのよ。いい子だからネガの場所を教えなさい。話す気持ちになったら、首を縦に振るのよ。ねっ、そしたら命だけは助けてあげるわ。さあ、どお?」 しゃがんで揃えた両膝からは34歳の大人の女の色香が匂い立っている。 白い太股のストッキングの擦れる音が官能的にかすかに聞こえる。 「ムムンンン・・」(誰が話すもんですか!)そう聞こえるような呻き声を上げてから、ゆり子は眼光鋭く睨み返して拒絶した。 話した後で殺されると思ったからだ。 次ぎの瞬間、瞳の激しい平手打ちが右頬に飛び、両頬を右手で鷲づかみにして凄んでいった。 「その反抗的な眼は何様のつもり! 小娘の分際で生意気な目をするんじゃないわよ。いいこと! 二度とそんな眼は私にはさせないわ。まあ、簡単に口を割られても面白くないわ。これからゆっくり躾てあげるから覚悟なさい。」 それから立ち上がると、ゆり子の眼の前にソファーの椅子をひとつ運んできて、最高の美脚を組んで携帯をかけ始めた。 その姿は目の前で尻餅つかされているゆり子には「私の脚、最高に綺麗でしょ!」と言われているようである。 「ボス、瞳です。連絡が遅くなりすみません。今,例のカメラマンを生け捕りにしました。縛り上げて転がしたら、ピチピチ跳ねてとっても活きがいい子です。」 「ご苦労。さすが瞳だ、仕事が早いな。それで例のものは見つかったか?」 「残念ながらここにはありません。これから折檻して白状させます。ただ隣の住人に感づかれてもまずいですし。」 「そうだな、その点は大丈夫なんだろうな。」 「もちろん、手抜かりはありませんわ。猿轡を噛ませてから締め上げてますもの。今、物凄い顔でこっち睨んでますわ、ふふ。噂以上のとってもチャーミングな子なんです。殺すにはもったいないくらいの美人ですわ。それよりレスキューお願いします。荷造り手伝って下さい。いつもの場所に連れ帰ります。」 「ほおぉ! 瞳から見てもイイ女か?」ボスが関心を示す。 瞳はソファに座ったまま、パンプスの先でゆり子の胸を小突きながら、 「ええ!なかなかの上玉ですわよ。胸は少しばかり貧乳ですが、スレンダーで引き締まったいい身体をしてますわ。あら! 口惜しいの? ふふ。今は顎が外れそうなくらいのボール猿轡を口一杯に噛ませて間抜けな顔をさせてますけど! ボス好みの反抗的な顔で私を口惜しそうに睨んでますわよ! ほほほ。」 瞳の報告にボスは満足したらしく、 「わかった。いつもの2人を行かせる。夜になって運び出そう。わかったな。」 「了解しました。それまで出来る限り尋問します。」そう言って携帯を切った。 会話中、瞳のパンプスはゆり子の顔や胸をずっと弄んでいた。 ゆり子が垂らす涎をパンプスの先端部ですくい、ゆり子の顔や服に擦り付けて遊んでいるのだ。 「さあ、これからがお楽しみよ。ゆり子ちゃん」 瞳の眼に残酷な光が宿っているように見えた。 |
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