<第2部>『スーパーヒロイン危機一髪』 (作 ベスト氏)

  プロローグ

今から30年近く前の昭和50年代、世は「ロッキード事件」などの政治家の黒い霧で庶民の怒りは頂点に達していた。
しかし、当時の司法はすべての悪を白日のもとにさらけ出すことが出来ずにいた。
そんな時、『正義のヒロイン・紫頭巾』と名乗るひとりのスーパーヒロインがいるとマスコミがはしゃぎたてた。
法で裁けぬ悪の自宅に深夜侵入し、悪党を縛り上げたあと、お灸を据えて立ち去る、という話だった。
紫の頭巾を被った人物が立ち去ったあとには『正義のヒロイン・紫頭巾参上』なる張り紙が残っていたらしい。
しかし、被害者全員が恥ずかしさと警察の関与を恐れて、公表しなかった為、真相はすべてわかった訳ではない。
ただ、『紫頭巾伝説』として人々の口に語り継がれただけである。

それから約30年、平成の時代になった今日、また同じような伝説が庶民の間で語られるようになったのだ。
今度のヒロインの名前は『パープル・キャット』。
まるで2代目紫頭巾推参とも言うかのように、巨悪と呼ばれる人間たちに天誅を下しているという噂が語られはじめたのだ。
庶民達が内心、憎々しく思っている悪党達の寝室に深夜突如現われ、今回も恥辱を与えて帰るというのだった。

噂では最近彼女が現れたのは、1週間前。
多額の賄賂を受け取りながら不起訴になった元首相宅に侵入した。
高い塀に囲まれた広い屋敷に、忍びこみ私設秘書や家人たちに当身を食らわせて気絶させ、寝室で就寝中の元首相を全裸にしてから縛りあげたのだ。
口には厳重な猿轡を噛ませた上で、股間のイチモツに紫のリボンをつけ、さらに頭からは紫のブラジャーを被せた屈辱的な姿にさせて、正面から写真を撮る。
そして、その写真を派閥の国会議員宅や支援者宅に送りつけたとの噂がこの1週間、永田町では持ちきりになっている。
しかし、今回も警察には被害届は出されず、関係者には厳しい緘口令が敷かれた為、噂の域を出ないでいた。
この半年間で、政治家や暴力団幹部、高級官僚等々すでに5人目、いや6人目だ、などと週刊誌は拍手喝采調に書き立てて盛り上げている。
これも噂の域を出ない話なのだが、先月、ある広域暴力団総長宅を襲撃した時は、寝込みを襲ったとはいえ、10人近いやくざの若い衆を瞬く間に気絶させるほど、『パープル・キャット』は際立った武道の達人ででもあるらしい。
当然『パープル・キャット』は誰なのかが今巷の最大の関心事になっていた。


監視カメラに残った映像や目撃者たちの話を総合すると、『パープル・キャット』は170chくらいな大柄な女で、黒いブーツに上下供黒のレザースーツに身を包み、黒のフルフェースのヘルメット。首には紫のスカーフを着け、大型バイクで風のようにやってくる。
身体にぴったりフィットしたレザースーツのシルエットはスタイル抜群のモデルのようなプロポーションをした女性であることは間違いなかった。
そして、今度も最後に『天に代わって悪を討つ・パープルキャット推参』という書置きが残されているらしいとの事である。