『ゆり子の災難』 (作 ベスト氏)

  第8章




瞳たちの乗ったトラックは、ゆり子のオフィスからほんの数十分の所にある都心近くの人身売買組織のアジトに滑りこんだ。

アジトの地下室の床に転がされたゆり子は、子宮の奥から突き上げるような熱いものと必死に戦っていた。
媚薬を塗り込められた秘部が男性自身を欲しがってどうしようもないのだ。
全身から汗を噴き出しながら、猿轡を噛み縛り獣のような呻き声をあげながら必死に耐えた。
瞳は、悶え苦しむゆり子の全身を男性自身の形をした電気製品で撫でまわし、
「白状する気になったら、首を縦に振りなさい。そしたら、猿轡を外してあげるわ。お水も飲ませてあげる。この男性自身だって銜えさせてあげるわよ。どお?」
と誘いを掛け続けたのである。
しかし、ついにゆり子は首を縦には振らなかったのだ。

それから1時間後、瞳の携帯が鳴った。ボスからの電話だ。

「あっ、ボス。もしもし瞳です。今、こちらから連絡しようと思っていたところでした。
先ほど川嶋ゆり子をアジトの方に運び込みました。・・・実はまだ、ネガの在り処を聞き出せずにいます。例の媚薬をたっぷり塗りこんだのですが、決して白状しないのです。本当に申し訳ありません。こんなに業の強い女は初めてです。今晩中には必ず自白させます。もう少し御猶予いただけないでしょうか。本当に不手際申し訳ありません」
瞳は申し訳なさそうに、言い訳をしゃべった。
「わかった。実はそのことだ。もう、白状させなくていい。実はな、ネガはすでに我等の手に入る段取りになった。その女カメラマンは親友の女刑事にネガを渡して相談している事がわかったんだ。(笑)。それを知って、私の飼い犬になりたいと言って、寝返った裏切り者の同僚の刑事がいるのだ。ハハハ。これまでのすべての経緯をその裏切り者に全部聞かせてもらったよ。
今からその女刑事を生け捕りにして、女カメラマンといっしょにロシアに売り飛ばして口を封じれば一件落着だ。ハハハ」
ボスは上機嫌で、瞳の不首尾を許したのだった。
「え!……。そうなんですか。ハイ、…。わかりました。ところで、その女刑事ってどんな女なのですか?」
叱責されずホッとした瞳は、その女刑事の事が急に気になりだしたのだった。
「ウン。実はそれが実にやっかいな女なのだ。いいか、よく聞け。名前は中谷佳乃・28歳。警視庁では知らぬものはいない程の美人刑事で、スーパーモデルのような抜群のスタイルをしている。空手とカンフーの達人でその上あらゆる特殊訓練を警察から徹底的に叩き込まれた警視庁きってのスーパーヒロインだ。この前までは捜査1課で辣腕を振るっていた。とにかく狂暴なほど強い。下手に襲撃したらひどい目に合うぞ。捕まえた女カメラマンとは子供の頃からの空手仲間のようだ。しかし、中谷佳乃については性格まで全て把握出来ている。シリアスなハードボイルドな刑事に憧れていて決してスカートを履かない事でも有名だそうだ。罠を仕掛けて生け捕る方法は考えてある。」
「・・・・・・・」
瞳は、1年前、偶然警視庁の駐車場で目撃した1人の女性のことが脳裏を走った。
ブン屋らしき男数人が、追いすがるのを振りきるように、長い黒いストレートの髪を風に靡かせ、黒のレザーパンツにブーツ姿で颯爽と大型バイクに乗り込むスタイル抜群の20代の女をみたことがあったのだ。警視庁にもあんなに垢抜けしたイイ女がいるのか、と感想を持ったのをはっきりと憶えている。もしかしたらあの女のことかもしれない。

ここでボスは一呼吸を置くとまた話だした。
「中谷を生け捕る罠についての私の考えだが。ふふふ。後で話そう。ところで、瞳も最近、巷で「正義の味方・パープルキャット」というのを聞いたことがないか?」
「え?、ええ、知っていますわ。何でも法で裁けぬ巨悪に天誅を下すとか言って、悪徳政治家や大物ヤクザの自宅に深夜侵入して全裸で縛り上げて、その写真を同業者たちに送りつけて大恥を掻かせるとか、週刊誌なんかでまるで実在するかのようにまことしやかに書かれているのを読んだことがあります。」
「実はそれは本当の話だ。被害者たちが、警察の介入を恐れて被害届けを出していないだ
けの事だ。そして、そのパープル・キャットが実は中谷佳乃のようなのだ。」
「??????」
瞳には、話があちこちに飛んで、頭が混乱してきていた。
「さっき捜査1課の刑事といったが、それは最近までのことだ。実は今は東京地検に出向という事になっている。半年前に東京地検特捜部に女性で初めて特捜部長に任官した松坂陽子という女がLRP(ラ―プ)という組織を作った。これは特捜部長直系の遊撃隊だ」
「何ですか、そのラープって?」
「ロングレンジパトロールという意味で、長時間都内を巡回してパトロールするという
名目の聞こえは可愛い組織だ。しかし、実際は特捜部長の直接命令で諜報活動をしているとの事だ。そして、このLRPが司直の網を巧みに逃れて不正を行う巨悪に対して天誅を加える組織だと私達の間では噂されているのだ。LRPのメンバー構成は極秘になってい
るが、片平いづみという30代の元刑事がチームリーダで、中谷佳乃が「パープル・キャット」という実行役のようだ。この中谷は松坂陽子が直々にスカウトして出向させたらしい。この松坂陽子という特捜部長が実に忌々しい存在なのだ。東大出のカミソリ検事といわれた女で正義感の塊で、『巨悪は眠らせない』とか青臭い書生みたいな理屈を言う女だ。
私も若い時に赤っ恥を掻かされた事がある。巧みに秘書に罪を押し付ける悪徳政治家や決して捕まらない大物暴力団幹部が許せないらしい。
莫大な遺産を親から受け継ぎ、ずいぶん裕福な暮らしをしているらしい。都内の高級マンションの最上階で1フロアを買いきって暮していやがる!LRPの資金も一部ポケットマネーから出ているとの事だ。とにかく彼女の肝いりで発足した組織だ。しかし、今度は私が泣きっ面をかかせてやる番だぞ。ふふふふ。それと、もうひとつ、これは私の推測だが、昭和50年代、汚職政治家たちに密かに制裁を加えた『紫頭巾』とかいうヒーローがもてはやされたが、あの紫頭巾こそ若き日の松坂陽子だったと思えるのだ。平成の今、またあの松坂が2代目紫頭巾こと『パープル・キャット』を中谷にやらせているのではないかと睨んでいる。」
「それでは、2代目紫頭巾の『パープル・キャット』が中谷佳乃であり、中谷佳乃が今回のネガを今持っているという、こう言う事ですね?」
「その通り。いいか。今から生け捕りにする罠を話す。今夜中に必ず誘き出して捕らえるんだ。いいな。」
「ハイ!」瞳は面白い話の展開に、心が弾んできていた。
そんな正義の味方面した女を一度、たっぷりと可愛がってみたかったのだ。
それから、ボスは瞳に丹念に指示を出した。

「中谷という女は、気が強く、気位も非常に高い性格のようだ。寝返った女の推測だと、陵辱されるくらいなら、自害すらやりかねぬ気性らしい。いいか、決して死なせるな。捕らえたら直ぐにクツワを噛ませろ!間違っても舌など噛ませるなよ!まあ、瞳のことだ、手抜かりは無いと思うが(笑)。とにかく、生きたまま、怪我もさせずに捕らえるんだ。無傷で調伏させたらとんでもない高値でロシアに売れるぞ。「サムライ娘」はとにかく高く売れるんだ。残念だが、今日もそっちには行けない。ただし、一部始終を撮影しておけ。楽しみにしているぞ。」
「万事心得ておりますわ!ふふ」
  


第1部 おわり
第2部に続く