『ゆり子の災難』 (作 ベスト氏)

  プロローグ

ここは都心に近い高級住宅街の傍らに立つ瀟洒なビルの一室。
ここがフリーのプロカメラマン・川嶋ゆり子のオフィス兼フォトスタジオ。
川嶋ゆり子・28歳。外見はか細く華奢にみえるが、空手の有段者であり、その腕前は達人の域に達していると言う人もいるほどだ。
そして主にスポーツ選手の表情を追うカメラマンとして業界でも高い評価を得ている。
いつも現場を飛びまわる彼女の存在はその美貌から特別に目立ち、誘いをかけるスポーツ選手は後を立たない。
そしてみんなからよく言われるのが、「そのノースリーブのシャツがよく似合うね。」という言葉。
「丸くて可愛い肩と細くて綺麗な腕がなんかそそるんだよね。」
そんな言葉を信じて、勝負の時は、ノースリーブを着るように心掛けている。
将に「美人だが、『絶世』と言うほどではなくどちらかと言えばキュートで健康的、知性と教養,行動力をもったキャリアウーマンタイプ」のスレンダー美人だ。

そんな彼女に変化が訪れたのが丁度1年前、知り合いの雑誌社から縛られた女性を撮ってくれ、と言う依頼があったこと。
もちろん最初は断った。同性の裸や秘部なんて逆に見たくなかったから。
しかし、着衣とランジェリーまでであり、縛られた女性の美しさを同じ女性の視点から撮ってくれとの、再三の懇願に負け、撮影してみた。
いざ撮影してみると縄師によって縛られていく同世代の女性が美しくみえ、持ち前の凝り性から今度は自分がもっと綺麗に縛りあげ、撮ってみたいと思うようになり、知り合いの武道家を通じて、江戸時代の捕縛術研究家に弟子入りして、縛りを覚えてしまった。
そして同性の女性から縛られ、写真に撮られるという安心感から、女性の方からモデルになりたいとの依頼が増え、その内のいくつかはモデルの同意のもと雑誌社にも売りいい金になっている。
今ではこっちの仕事がライフワークなっているほどだ。

そしてつい3日前、モデルとして縛られたいという女性からのメールの中に、びっくりするほどの美人からの申し込みがあった。
年齢は34歳と年上だが、身長、体重、スリーサイズは申し分なく、まるでモデルのようなスタイル、将に『現代の絶世の美人』タイプ。
履歴書には都内に住むサラリーマンの主婦としか書かれていない。
メールには「これまで縛られた経験はないが、少女の頃から同性の綺麗なお姉様に厳しく縛られ猿轡を嵌められ、優しく折檻されたいという潜在的な願望があったと思います。
テレビ時代劇でお姫様が悪人に捕らえられ、男より首領の情婦の年増女から猿轡されて弄ばれるのを見ると胸がどきどきしてました。今回思いきって川嶋先生に縛られてみたい。綺麗な自分を撮ってもらいたい。」と書かれている。
将に女性ボンデージアーティストの自分がこれから目指す志向である。
早速TELをして条件を詰め、撮影することとなった。
しかし、これが川嶋ゆり子にとってとんでもない災難の始まりであることを彼女は知らないのである。
彼女の知らない水面下で陰謀が語られている事を。